Club Silencio

夢と現実の魔境からお届け

【ネタバレ感想】『ファントム・スレッド』評

レイノルズは近頃、気持ちが不安定だと漏らす。

それは母親の幽霊に怖がっているのではなく、ただひたすらに恋しいのである。

 

そんな彼が母親の遺髪を縫い込んだ背広を着て、別荘近くのレストランを訪れると、ウェイトレスをしていたアルマという女性に一目惚れをする。しかし、彼女自身ではなく、その完璧な身体に恋をしたのだ。

 

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それは仕立て屋のレイノルズにとって、服を作ることこそが性的な行為に他ならないからだ。布に手を這わせるという愛撫。縫い針を通すという挿入。つまり、アルマはドレスを型取るためのマネキンでしかない。

 

そうしてハウス・オブ・ウッドコックに連れてこられた彼女にしてみれば、どうしようもなくもどかしいだろう。直接的な触れ合いを望むが、オートクチュールのドレスを介さなければ、コミュニケーションさえ取れない。

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だからレイノルズとアルマは生理的に相性が悪い。

 

それでも惹かれあってしまうから仕方がない。

着飾るように偽りながら、アルマはレイノルズの性のユートピアに住まう。しかし、女性がめくるめくように彼のドレスを求めてやって来るのを見ていれば、彼女が嫉妬に狂うのは時間の問題だった。

 

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ならば、毒を盛ってしまおうではないか!

あなたの自由を奪って、

あなたを感じるために。

 

弱ったレイノルズは赤子のようだ。

それは母親の不在に嘆き切った末の姿と言えるのか。

そこへアルマは優しく看病をする。

それは望んでいた彼との触れ合いだと言えるだろう。

 

つまり、結果として、毒を盛ることで2人の利害は一致していくのだ。

 

そして、アルマはこう言う。

「あなたには無力で倒れていてほしい」

 

夫婦となった彼らは、そうして実質的な初夜を迎えることになった。

 

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そのようにして男女の関係に於ける悪夢的体験と白昼夢的体験が、惑乱的な反転を見せる。それが映画の快楽の芯としてあるからこそ、とろけるようなラブストーリーに昇華していくのだ。まるでフライパンの上で焼かれるバターのように…

 

ファントム・スレッド』は生ぬるい恋愛とは一線を画すが、あんな恋がしてみたい!

 毒キノコ入りオムレツをたらふく食べて、ドレスを縫おうではないか!

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