Club Silencio

夢と現実の魔境からお届け

【ネタバレ感想】『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』評

もうすぐ寅の刻。

シカゴが「25 or 6 to 4」で歌うように。

 

因みに、”寅”の会意文字としての「引き延ばす」は、”氵”の「水のように」と共に、単語家族としての”演(じる)”を表す。つまり、寅の刻とはトーニャ・ハーディングフィギュアスケートで演技をしている時間を指すと言えるだろう。

そう、彼女の演技が始まる。

f:id:atsuki485711:20180504191209j:plain

 

トーニャ・ハーディングは幼少期から才能があった。そこに目を付けた母親は貧困から抜け出すため「あの娘は”どうせダメだ”と言わないと力を発揮しない」という理念と共に、英才と称した言葉と体の暴力でねじ伏せた教育を始める。その逃げることのできない純粋培養下では、彼女はフィギュアスケートをするしか無かった。

 

その天性の才能と努力によって、トーニャ・ハーディングはアメリカ人初のトリプルアクセルを成功させるにまで至る。勢いのままアルベールビルオリンピックに出場するものの、トリプルアクセルの着氷に失敗して4位入賞。その後のシーズンも不調となる。そんな中でスポンサーも全く付かず、ウェイトレスとして働きながら、もう一度オリンピックを目指していた矢先に、彼女の夫であるジェフ・ギルーリーの友人が「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を起こしてしまう。

 

事件発生から2週間後、夫らは逮捕されトーニャ・ハーディングにも疑惑の目が向けられる。協会や委員会から追放も検討される中で、法的措置をほのめかしリレハンメルオリンピックに出場。演技の最中、トリプルルッツの失敗後に「靴紐が切れた」と泣き出し、やり直しが認められたものの、最終順位は8位入賞に留まった。

f:id:atsuki485711:20180504215301j:plain

 

 敵が必要だった。

それはトーニャ・ハーディングに対する親族関係はもちろん、国民というオーディエンスは彼女に加害者というレッテル貼った。しかし、彼女こそ被害者でもあるのに…。つまり、”他人の不幸は蜜の味”というシャーデンフロイデ。それらを忘れ去るかのように「O・J・シンプソン事件」が報道される瞬間は、まさに彼らは敵を作り続け、蜜を吸い尽くそうとしているのだと感じる。だからこそ彼女はこう言う。

 

「Suck My Dick!/私のチンコをしゃぶれ!」

 

youtu.be

 

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』はトーニャ・ハーディングの伝記を映画化することで、その見えなかった真相を明らかにする。また冒頭にもある通り、irony free/皮肉はなし、wildly contradictory/激しい矛盾、totally true/完全な真実、based/に基づいた、interviews/インタビューであるからして、スキャンダル・オン・アイスの相克を描くと言えるだろう。

 

そういった語り口が第四の壁やヒップホップ的(?)編集などとグルーヴィーであり、それらを演じる幼少期のマッケンナ・グレイスや母親のアリソン・ジャネイなどが最高。そして『スーサイド・スクワッド』でハーレイクインを演じたのもそうだが、どこか道化師顔のマーゴット・ロビートーニャ・ハーディングを演じるのは格別。

 f:id:atsuki485711:20180504230241p:plain